日本には大手ビールメーカーが5社存在します。アサヒ、キリン、サッポロ、サントリー。この4社に続く5番目のメーカーが沖縄のオリオンビール。そのオリオンビールのECサイトがいま絶好調です。コロナ禍で飲食店が大きな打撃を受けている中、ファンとの接点を強化し、沖縄のカルチャーブランドとして人気を博しています。好調の要因はどこにあるのでしょう。サイトを運営する上符裕一氏にお聞きしました。
オリオンビール株式会社の上符裕一氏
アナログなサイトから大幅刷新
オリオンビールのECサイトは今年7月に大刷新されました。看板商品の「ザ・ドラフト」、シークワーサーやパッションフルーツを配合した缶チューハイ、ロゴが入ったオリジナルのビールグラスやTシャツ、トートバッグ。商品が整然と並び、明るく爽やかなデザインで仕上げられたサイトは沖縄の青い海と空を感じさせます。
「でも、リニューアル前は正直言って、残念なサイトだったんですよ(笑)。販売していたのは4SKU(商品の最小単位)だけ。10年前に立ち上げたのですが、ECサイトとは名ばかりで、申し込みフォームからオーダーを入れて、銀行振込で支払う仕組み。アナログな運用にとどまっていました」
刷新するか、いっそのことやめてしまうか。何度も議論されながらも、「常連さんが多い」という理由からそのままの形で継続運用されてきたサイトの見直しが決定したのは今年の1月。会社の経営体制が大きく変わったことを機に、ECサイトは県外のファンを獲得するための武器として活用されることになりました。
「会社の中期計画として、ECサイトを新しくすることが決まりました。もっとも、当初は9月オープンの予定だったんです。ところが4月に新型コロナウイルスの感染拡大で、ビールを卸していた飲食店の売上が激減したことから、前倒しでECサイトをオープンすることになりました」
新型コロナウイルスがいつ収束するかもわからない。だったら、ECサイトを舞台に消費者に直接働きかけていこう。こうしてオリオンビールのECサイトはまったく新しい形に生まれ変わりました。
拡張性の高さがShopifyを選んだ決め手
オリオンビールが新しいECサイトのプラットフォームとして選んだのがShopifyです。
「前職でいろいろなプラットフォームを使っていました。Shopify自体は使う機会はなかったのですが、昨年からShopifyのパートナーが増えて、導入する企業が多いことは知っていました。決め手になったのは将来性ですね。これからサブスクリプションなどやりたいことはたくさんありますが、Shopifyなら何でも対応できるだろうと思いました(笑)。拡張性の多いアプリが豊富に揃っていますからね」
ECの裏側を支えるフルフィルメントとの連携性も決め手の一つだったといいます。
「ロジスティクスとの連携も楽で、受注から出荷までのプロセスがとてもスムーズになりました。使いやすいのもいいですね。ページを一つ作るにしても、ユーザーインターフェースがとても優れていると思います。
弊社はメーカーなので、デジタルに明るい人材はあまりいないのですが(笑)、Shopify Expertsのコマースメディアさまのサポートを受けて、ECサイト担当者は特別なトレーニングはなしで、すっかりShopifyを使いこなしています」
柔軟性、拡張性、使いやすさ。Shopifyの特性を活かして、オリオンビールのECサイトが次にどのようなサービスを付加していくのか楽しみです。
自宅で「沖縄時間」を楽しめるラインナップ
いまオリオンビールのECサイトで販売している商品の数はトータルで60SKU。そのうち、ビールは16SKU、チューハイが13SKU、泡盛やジンなどの県産品が7SKU、残りはオリジナルグッズという構成です。
県産品やオリジナルグッズなど、酒類以外の商品も取り揃えているのは、「沖縄時間を家で楽しんでもらうこと」をコンセプトとして掲げているため。
「オリオンビールのイメージは沖縄の人と、沖縄以外の人とでは大きく違います。沖縄の人にとってのオリオンビールは、昔からあるビール。どちらかといえばおじいさんが飲んでいる古き良きビールというイメージでしょうか(笑)。でも、東京の人にとってのオリオンビールは、沖縄の文化や観光、リゾート、海のイメージと紐付いている。県外の人に沖縄のことを知ってもらうためのラインナップを追求しました」
狙い通り、いまECサイトの利用客の95%は沖縄県外の人。特に東京の利用者が多く、45%を占めています。沖縄旅行の経験がある、もしくは沖縄の土産品をもらったことがあるなど、何らかの形で沖縄と「接点」がある人の利用が大半です。新型コロナウイルスの影響で、沖縄に旅行に行きたくてもいけない、旅行に行けないのなら自宅で沖縄気分を味わいたい。オリオンビールのECサイトは、そうした消費者心理を巧みにくすぐっています。
オープン以来、変わらぬ人気を集めているのがオリオンビール初のプレミアムクラフトビール「75BEER」。ビールの街「名護」発祥のこのビールはオリオンビールのECサイトの限定商品。売上の25%を占める大ベストセラーです。
興味深いのが「提灯」の人気でしょう。居酒屋などでディスプレイとして使用されているロゴ入り提灯は、新装開店したオリオンビールのサイトで最初に売り切れたアイテムでした。
「リニューアル前に雑誌の取材を受けて、『ECで提灯を売ります』と告知したところ、即完売しました。その後、何回も再販していますが、そのたびに売り切れる。待っている方も多いので、11月にまた再販する予定です」
ギフトの需要も高く、売上の15%がギフト。お中元などの歳時とは関係なく、カジュアルギフトとしての利用が目立つそうです。自宅にオリオンビールのロゴが入った提灯を掲げ、その下でオリオンビールをプシュッと開けて飲む。家族で乾杯用のビールとして味わう。「沖縄時間」を親戚や友人にもおすそ分けして楽しんでもらう--。ちょっと大げさにいえば、オリオンビールはビールではなく、ビールを含めた沖縄のライフスタイルを提供しているのです。
非セールスに徹したツイートがファンを増やした
ECサイトの好調を支えている要因としては、SNSの活用も見逃せません。オリオンビールでは、Twitter、Instagram、Facebook、YouTubeを利用していますが、とりわけ力を入れているのがTwitterです。
「TwitterからECサイトに流入される方が多いんです。数字については公表していませんが、一般のECよりかなり高いと思いますね。といってもプロモーションやイベントに関するTweetは多くありません。もともとはビールのイベント情報、キャンペーンに関する告知に使っていましたが、新型コロナウイルス感染症の流行後は沖縄の海や空など、沖縄の空気を感じてもらえるような非セールス情報を増やしたところ、3月には5,000人だったフォロワー数が7万5000人まで増えました」
「売らんかな」のTweetで埋め尽くされたアカウントでは、情報通の消費者は一歩引いてしまうでしょう。でも、オリオンビールのTwitterはそうではありません。Tweetを読んでいるうちに、沖縄の風を感じ、沖縄に行きたい・見たい・楽しみたいという気持ちが高まってくる。フォローしていたら、もっと沖縄への旅情、愛着、好感度が高まってきた。そんなツイートの積み重ねがフォロワーを増やし、ひいては購買に直結したのです。
上符氏に今後の計画についても聞いてみました。
「年末に向けてはギフトを強化します。冬に向けて限定商品も販売しますよ。オリジナルグッズはもっと充実させたいですね」
オリジナルグッズの中でも、ビールグラスは「75BEER」と合わせて購入されることが多い商品です。せっかくプレミアムビールを飲むのなら専用のグラスを使って沖縄気気分をより高めたいと考えているからでしょう。
「沖縄の文化と密接に結びついているのはオリオンビールの持ち味だと思うんです。なので、グッズは売上の半分を占める商材として積極的に伸ばしていきたいですね。目指すは、オリオンビールのファンが集まる場所です」
毎年6月〜9月、オリオンビールは「オリオンビアフェスト」を開催しています。残念ながら今年は新型コロナウイルスの影響で中止になりましたが、上符さんはオンラインでできるイベントも検討中です。
「ECサイトをビールを売るサイトに終わらせたくないんです。リアルの交流の機会を設けたり、ライブで楽しめるイベントへとつなげていきたいですね」
沖縄の文化、沖縄の食、沖縄の空気を愛してやまないファンたちをつなぐエンジンとして、オリオンビールのECサイトが果たす役割はますます大きくなりそうです。
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