ad:tech tokyo 2022のキーノート会場で開催されたこのセッションでは、SHOPIFY JAPAN 株式会社 シニアビジネスディベロップメントマネジャーの泉貴文氏をファシリテーターに、Meta日本法人Facebook Japan グローバルビジネスグループの鈴木大海氏、TikTok for Business JapanのAPAC regional sponsor of SMB Agencyの江建氏、LINE株式会社 プランニング統括本部 アカウント事業企画室 室長の高木祥吾氏が登壇。代表的なソーシャルプラットフォーム企業が一堂に会し、ソーシャルコマースの現状と可能性について事例を交えて議論しました。
<目次>
1. 情報過多の中、コミュニケーションがより重要視される時代に
2. 消費者とブランドの感情的な結びつきは強まっている
3. 消費者は「信頼できる人」におすすめされて購入したい
4. 共通するテーマは「信頼をどう勝ち取るか」
1. 情報過多の中、コミュニケーションがより重要視される時代に
セッション冒頭では、泉氏がeコマースの市場規模についてのデータを紹介。米国の市場調査会社のリサーチでは、2024年には2016年比で350%となる29兆円規模に拡大することが予測されているとのこと。「顧客視点に立つと、サービスを受けるタイミングが増え、取捨選択が難しくなっている状況を意味している」と泉氏は分析します。
そして、事業者サイドの視点では、競合が増え、自社やブランドがいかに顧客とコミュニケーションしていくか、いかに他との違いを出していくのかが非常に重要になると指摘しました。
これを受けてFacebook Japanの鈴木氏は、マスマーケティングの時代には、情報の送り手と受け手に二分された一方通行の状態だったことを指摘。「15年前に比べてメディアの消費時間が1.4倍に増えているとの統計もあり、絶対的に情報量が増えています。だからこそ情報を発信するクリエイターの存在がとても重要になっています」と続けます。
2. 消費者とブランドの感情的な結びつきは強まっている
TikTokの江氏は、APECにおけるeコマースの市場規模のデータからクリエイターエコノミーの重要性を強調します。
コンテンツ主導型のコマースの市場規模は2022年に5000億ドルになると試算されており、さらに、今後3年間で約2倍の1.1兆ドルにまで増加するとの予測も立てられているとのこと。とくに、日本を含む6つの成長市場では240億ドルから1000億ドルへの増加、年間の平均成長率では63%増という予測があるといいます。
さらに、なぜそこまで伸びるかをコンシューマー側の心理から分析したレポートも紹介。ここでは、デマンドスペース法という分析手法を使い、ユーザーのニーズを「機能的なデマンドスペース」と「感情的なデマンドスペース」に分類。より簡単で便利になった、機能がグレードアップされたといった既存の商品に対する評価の軸を「機能的なデマンドスペース」、新しいブランドやサービスに対して、誰かがすすめてくれるなら試したい、ちょっとした贅沢として購入したいといった感情的なニーズに応えるものを「感情的なデマンドスペース」としています。
「ショッピングのエコシステムの約40%は感情的なデマンドスペースです。情報過多のなか、消費者は何かを決めることにストレスを感じるデジタル疲れに陥っている一方で、ブランドとの感情的な結びつきは非常に強いものがあります。この部分が自社商品やサービスを選んでもらう上で大事になってくると考えています」と江氏は解説しました。
LINEの高木氏は、自社サービスの特徴を「チャット機能を活用してクリエイターと消費者をつなげることのできるプラットフォーム」と分析。企業がLINE公式アカウントを使って消費者とつながることは以前から行われていましたが、現在注力するのが店舗スタッフによるオンライン接客だといいます。
バニッシュスタンダード社のオンライン接客ツール「STAFF START」と連携し、LINE公式アカウントとオンライン接客ツールを組み合わせた新しいサービス「LINE STAFF START」を展開。実際のユースケースとして、サザビーリーグの事例が紹介されました。
実店舗を訪れた顧客に、スタッフが自身のLINE公式アカウントを友だち追加してもらい、その後、新商品の入荷情報などをメッセージで送信。必要に応じてコーディネートの相談などにも応じることで再購入を促す流れとなっています。
結果として、LINE STAFF START経由の客単価は120%に増大。提案購入率が80%に達するケースもあるそうです。さらに、オンラインへの送客だけでなく、実店舗への再度の来店を促す効果も生まれていると高木氏は効果を強調します。
「店舗スタッフの中にはインフルエンサー化している方も多いので、それぞれの方が個人のLINE公式アカウントを持ち、クリエイティビティを発揮してもらうことで、効果的なコミュニケーションを行うことができます。都市部の店舗だけでなく、地方の店舗のスタッフも活躍している点もオンライン接客ならではの特徴だと感じています」と高木氏。
2. 消費者とブランドの感情的な結びつきは強まっている
ここまでの話を踏まえ、泉氏は、「顧客接点が増え、信頼できる相手から購入することが今後より一層トレンドになっていきます。重要となるのは、どうやってその信頼関係をそのクリエイター経由で作るのかです」と問題提起。それに対して、各社が取り組みを紹介していきます。
鈴木氏は、「Instagramでは『好きと欲しいをつくる』を事業者向けタグラインとして打ち出している。自分が好きで興味関心が高く、求めている情報をしっかり入手できることがInstagramの価値」としたうえで、事例としてパーソナライズサプリ「FUJIMI」を紹介しました。
このキャンペーンでは、新規顧客の獲得を目的に、マイクロインフルエンサーを起用。クリエイターとブランドのダブルネームで投稿することで利用者の関心が高くなり、より自分事化できる効果があったといいます。
その結果、通常の広告キャンペーンと比較して、コンバージョン数は2.1倍、CPAは44%改善、CPMは28%削減でき、さらにブランド認知を高めることにもつながったといいます。
「マイクロインフルエンサーを起用していただくことで、利用者により自分に近しいと感じてもらえる効果もあったと思っています。利用者にとって身近なクリエイターさん、インフルエンサーさんにお手伝いいただくことによって獲得効率が上がり、認知効果も得られることがわかる結果となりました」と鈴木氏は話します。
ひとくちにクリエイターの活用といっても、プラットフォームによって求められるスタイルは異なります。江氏はTikTokらしいクリエイティブとして、「深い視聴体験ができる動画で、かつユーザーに気づきを与えるようなストーリーテリングを持っていること」を挙げます。
「消費者は選ぶのに迷っているといいつつ、意志決定を無理強いされるのは嫌だというわがままな側面があります。感情的なデマンドスペースに訴えかける姿勢や、インスピレーション、世界観を出していくことが、ブランドスイッチや新しい商品に伸ばすハードルを下げることにつながることがわかっています」
とくにTikTokは、明確な目的を持たず、おもしろいものを探したいというニーズで利用する人が73%を占めるという特徴があり、エンターテイメントの場という側面が強いとのこと。
そんなTikTokの特徴を生かしたプロモーションとして、メイクアップブランドKATEの口紅「リップモンスター」の事例を紹介しました。
ここでは、ブランドエフェクトとよばれる機能を使い、クリエイターが口紅を塗る独自エフェクトの動画を展開。ユーザーも同機能で商品を疑似体験した動画を投稿できるようにしたところ投稿が続出。発売から1年で累計出荷本数350万本を突破するほどの人気商品になるきっかけになったといいます。
「TikTokの動画は15秒から最大3分と短いので、もう少しその商品のことを知りたい、価格を知りたいという場合には、公式サイトや動画配信プラットフォーム、あるいは他のプラットフォームに移動して情報を得る、またそれをシェアするという動線になっています。情報過多の今、まずTikTokで短い動画をたくさん見て、興味があればより詳しい情報を他で見るという情報のとり方をする人が増えています」と江氏。TikTokでのプロモーションにあたっては、そのような情報の起点であることを意識するのがよいとアドバイスします。
高木氏は、「One to OneのコミュニケーションができるLINEは、信頼を深めることが得意なプラットフォーム。ECと繋げることによってさらにそれを深めることができる」と、ECサイトとLINE公式アカウントを連携したFrancfrancの事例を紹介。
シーズン商品の紹介などは一斉配信で行い、それに加えて、2回目の購入促進やカートに入れたままの商品のリマインド、バースデークーポンの配信などをOne to Oneで実施。「導入から1年も経っていない段階ですが、ECへの送客はかなり上がっている状況です。より深いコミュニケーションが取れることにより、顧客のLTVが上がっていき信頼が深まっていくという点で、LINEの強みをうまく生かしている事例だと感じています」としました。
4. 共通するテーマは「信頼をどう勝ち取るか」
鈴木氏は、「今は本当に接点が増え続けている状況。消費者に自分ごと化してもらうための効率のよい手段として、クリエイターマーケティングを推奨していきたい」と今後を語りました。
高木氏は、「やはり3社の違いは明確にあり、それぞれがうまく交わっていけることがとても興味深く感じました」と振り返ります。
江氏は「違いもありつつ、消費者からの信頼をどう勝ち取るかみたいなところは共通していると感じました。一番重要なのはそこなのではと思っています」と語り、セッションは終了しました。