この記事では会社形態の種類やそれぞれのメリットやデメリット、また会社形態の選び方について解説します。
会社形態の種類
現在、日本で新設できる会社形態は以下の4種類です。
- 株式会社
- 合同会社
- 合資会社
- 合名会社
株式会社以外の3つの形態はまとめて持分会社といいます。
株式会社の場合、会社を保有しているのは株主ですが、実際に経営をするのは役員です。一方で、持分会社は出資者と経営者が同じであるため、全員に利益が配分されるだけでなく、出資者も経営に関わります。
また、会社が負債を負った際の責任の度合いによって、出資者に以下のような違いがあるのも特徴です。
- 有限責任社員:会社が負った債務や損失に対して、出資額分のみの責任を負う
- 無限責任社員:出資金以外の自己資産分も合わせて無限に責任を負う
「社員」は企業の従業員を指すのではなく、株式会社の株主にあたる出資者を指します。
万が一、企業が倒産した場合、無限責任社員は負債をすべて負担しなければなりません。
株式会社とは
株式会社は、会社を所有する株主と経営をする役員が分かれている形態です。
所有者と経営者が分離しているため、経営者だからといって、経営のすべてを思いどおりにできるとは限りません。経営に関する大きな決定をする場合は、株主総会を開く必要があります。株主総会で反対されれば、経営者であっても判断を覆すことは難しいでしょう。
株式会社の場合、設立や運営に必要な資本金は自分で用意することもできますが、株式を発行したうえで、出資者を募って資金を集めることも可能です。
不特定多数の投資家に株式を購入してもらい、出資者になってもらうことで、より多くの資金を集められます。株式を発行した際は、その見返りとして、会社の利益を配当金として持ち株の割合を元に株主に還元しなければなりません。
株式会社のメリット
- 認知度と信頼性が高い
- 資金を集めやすい
- 出資者のリスクが低い
令和5年1月時点で、法人登記件数の9割は株式会社です。持分会社と比較すると認知度が高く、金融機関や投資家から出資を受けやすい傾向にあります。遵守しなければならない法律や規則も多いので、信用度も高いです。
また、通常の融資と比較して、株式を発行すれば数億円単位の資金を集めやすいのも特徴です。株式は借金とは異なるため、返済の必要もありません。
万が一、会社が倒産したとしても、株式会社の経営者は有限責任のため、出資金以上のリスクを背負わないのもメリットといえるでしょう。
ただし、金融機関から融資を受ける際には、代表取締役社長の個人保証を求められる場合がほとんどです。事実上、無限責任社員として扱われる場合が多いため、リスクが完全にないわけではないことは理解しておきましょう。
株式会社のデメリット
- 決算に関するルールが厳しい
- 設立にお金がかかる
- 株主の意向を経営に反映させる必要がある
株式会社では決算報告や財務状況の定期的な開示が義務付けられています。また、設立の際に登録免許税や定款の認証などを受けるために、最低20万円程度の資金が必要です。
そのほかに、会社の利益を受け取っている株主の意向を経営に反映させる必要があります。また、所有している株の割合によっては、経営者の座を奪われることもあるでしょう。
たとえば、会社の経営権を得るには、2分の1以上の株式を保有している必要があります。経営権を失うことで、できなくなる主な決議は以下のとおりです。
- 取締役の選任
- 役員報酬の決定
- 剰余金の配当
さらに、3分の2以上の株式を保有されると、株主総会の特別決議を成立させられるようになってしまい、支配権も奪われてしまいます。
株主総会の決定には逆らえないので、経営者だからといって、すべてを自分で決定できるわけではありません。
合同会社とは
2006年の新会社法で有限会社の代わりに制定されたのが合同会社です。
アメリカのLLCがモデルといわれていることから、日本型LLCともいわれています。株式会社と異なり、利益配分や組織設計に制限がありません。
株式会社に次いで人気のある形態で、Amazonや西友、アップルジャパンも合同会社です。
合同会社のメリット
- 会社設立の費用を抑えられる
- 経営に関する意思決定が早い
- 出資者のリスクが低い
定款の認証が不要なため、登録免許税の60,000円とそのほかの費用を含めて100,000円程度で設立できます。
持株会社である合同会社は、出資者と経営者がイコールであるため、スピーディに意思決定できるのがメリットです。株主総会を開く必要がないことから、自由に経営を進められるでしょう。
また、全員が有限責任社員になるので、負債が発生した場合のリスクも抑えられます。
合同会社のデメリット
株式会社よりもコストを抑えられる合同会社ですが、以下のようなデメリットもあります。
- 社会的認知度が低い
- 資金を集めにくい
Amazonやアップルジャパンなどの有名企業が合同会社であることから、認知度は上昇傾向にありますが、株式会社ほどは認知されていません。認知度が低いと金融機関や取引先からの信用を得にくい場合があります。
また、株式を発行できないので、多額の資金を集めにくい場合がほとんどです。ただし、手続きをすれば2ヶ月ほど時間はかかりますが、株式会社に変更もできます。
合資会社とは
合資会社は有限責任社員と無限責任社員の2名以上で構成され、登記申請だけで会社設立ができます。定款の認証や決算公告は必要ありません。
基本的に、経営者とスポンサーのような関係であるため、経営をするのは無限責任社員です。合資会社はあまり設立されませんが、少人数の酒造や醸造会社、タクシー、IT関連企業などに選ばれる傾向にあります。
合資会社のメリット
合資会社は、資本金がいらないため設立費用を抑えられます。定款の認証も不要で、登録免許税も60,000円程度なので、株式会社よりも安く設立できるのがメリットです。
また、資本金の代わりに不動産や車、有価証券などを元手に出資できます。ただし、金銭と異なり、正確な評価が難しいため、裁判所が選任する検査役の調査を受けなければなりません。ローンを完済できていない不動産や車は対象にならないので注意しましょう。
合資会社のデメリット
株式会社や合同会社と比べて、有限責任社員と無限責任社員の2人以上がいないと会社を設立できないのがデメリットです。
また、万が一、倒産した場合、負債の大半を無限責任社員が返済しなければなりません。出資分だけ負担すればよい有限責任社員と異なり、無限責任社員は必要に応じて個人資産も返済に充てる必要があります。
無限責任社員のリスクが非常に高いため、昨今では合資会社はあまり選択されないのが事実です。
合名会社とは
合名会社は無限責任社員1人以上で設立できる形態です。
社員一人ひとりが業務執行権と代表権を持つため、自由度の高い経営ができます。一方で、定款の変更等には、社員一人ひとりの同意が求められるので注意しましょう。
合名会社のメリット
合名会社は、株式会社と異なり定款の認証が不要なので、合同会社や合資会社と同様に設立の費用を100,000円程度に抑えられます。
また、基本的に現金の資本金を用意する必要がないため、不動産や車などの現物や信用から出資が可能です。
持分会社に分類されることから、利益の分配を自由に決められるのもメリットの一つです。また、決算公告の義務もありません。
合名会社のデメリット
合名会社は、株式の発行ができないので、資金を集めにくい傾向にあります。
また、無限責任社員で構成されているため、全員がすべての責任を負わなければなりません。万が一、倒産した場合は出資金だけでなく、個人資産にも影響を及ぼす可能性があり、株式会社や合同会社よりもリスクが高いといえるでしょう。
合名会社はリスクが高いにもかかわらず、それ以上のメリットがないので、昨今ではほとんど設立されません。
個人事業主とは
個人事業主とは、個人で事業に取り組むために開業届を提出している人です。
1人で依頼物を制作するウェブデザイナーやECサイトの運営者、家族経営の飲食店の経営者などは個人事業主を選択しているケースが多くあります。
また、開業届を出さずに個人で仕事を請け負っている場合は、フリーランスといわれますが、税務上の分類は個人事業主と変わりません。個人事業主は手続きをすれば、法人化することも可能です。
これからECサイトの運営やウェブデザインなどの事業を始めようと考えている人でも開業届の提出には費用がかからないため、気軽に開業できます。
個人事業主のメリット
- 簡単に開業できる
- 節税効果を得られる
個人事業主の開業は法人設立と比較して簡単です。設立費用もかからず、事業の変更・追加・廃止はいつでも可能です。
所得税の青色申告承認特別書を提出することで、要件を満たせば確定申告の際に、最大65万円の控除を受けられます。3年間赤字の繰越もできるため、節税効果も感じられるでしょう。
また、法人と個人事業主では経費として使用できる範囲が異なります。
基本的に、個人事業主は経費に使用できる範囲が狭いので、節税対策がしにくい場合がほとんどです。しかし、所得が少なければ、法人よりも税金を抑えられる可能性もあります。
自分の事業にとって個人事業主と法人のどちらが税金面で得かは、税理士などの専門家に相談しましょう。
個人事業主のデメリット
- 確定申告が必要
- 保険料の負担が大きい
- 社会的信用を得にくい
基本的に、会社員の場合、社会保険料は企業が半額負担し、税金の申告も年末調整だけで問題ありません。しかし、個人事業主は発生した利益や経費の確定申告を自分で行う必要があります。また、個人事業主の多くが加入する国民保険は、社会保険と異なり、所得に応じた金額を全額納めなければなりません。
加えて、個人事業主は金融機関に収入が不安定だと判断されやすいため、クレジットカードやローンの審査に通りにくい傾向にあります。
会社形態の選び方
会社形態の選び方のポイントは以下のとおりです。
- 設立費用
- 意思決定のしやすさ
- 資金調達のしやすさ
- 出資者の責任範囲
- 知名度
それぞれのポイントを比較して、自分の事業にあった会社形態を選びましょう。
設立費用
会社形態によって、設立にかかる費用は異なります。株式会社の費用は以下のとおりです。
- 定款用の収入印紙代:40,000円
- 定款用の謄本手数料:2,000円
- 定款の認証手数料:30,000円
- 登録免許税:150,000円(もしくは資本金×0.7%の高い方)
資本金によっても異なりますが、株式会社だと220,000円程度の費用がかかります。一方で、合同会社・合資会社・合名会社の費用は以下のとおりです。
- 定款用の収入印紙代:40,000円
- 定款用の謄本手数料:2,000円
- 登録免許税:60,000円(もしくは資本金×0.7%の高い方)
合同会社を始めとする持分会社であれば、定款の認証が不要なので、100,000円程度で済む場合がほとんどです。会社の設立費用を抑えたい人は、持株会社を選ぶとよいでしょう。
意思決定のしやすさ
出資者と経営者が同じだと意思決定が素早くできる傾向にあります。
出資者と経営者が別になる株式会社は、経営に関する大きな決定をする場合は、株主総会で意見を聞かなければなりません。外部の意見を柔軟に取り入れやすい一方で、意思決定に時間がかかるのも事実です。
しかし、持分会社であれば、第三者の介入がしにくいので、スムーズに意思決定ができるでしょう。
資金調達のしやすさ
株式会社は株式の発行により、投資家から数億円規模の融資を受けられる可能性があります。事業を大きくしたい人は、設備投資や商品開発などの資金調達が必要になるため、株式会社を選びましょう。
一方で、持分会社は株式の発行ができないので、補助金や助成金、融資を活用します。しかし、株式の発行ほどの大規模な資金は得られません。
出資者の責任範囲
株式会社と合同会社は、有限責任社員のみで構成されるため、会社が倒産しても出資金以上の責任を負う心配はありません。
しかし、合資会社や合名会社は無限責任社員も構成に含まれるので、負債を抱えた場合は個人資産を返済に充てる必要があります。そのため、合資会社と合名会社は出資者のリスクが高いのが特徴です。
リスクを抑えたい人は、株式会社や合同会社を選びましょう。
知名度
会社形態の知名度が低いと、資金力が不足していると金融機関に判断される傾向にあります。また、従業員の雇用を検討している場合、知名度が低いと信用されにくく、人が集まらないことがあります。
各会社形態のなかで、最も知名度が高いのは株式会社です。次いで合同会社も知名度がありますが、全体の登記件数が少ないため、株式会社ほどの認知度はありません。
大手企業との取引を希望する場合は、株式会社を選んでおくと知名度も社会的信用度も高いので契約につながりやすいでしょう。
まとめ
会社の形態には、株式会社や合同会社、合資会社、合名会社があります。
株式会社以外の形態の会社は持分会社といい、出資者と経営者が同一であるのが特徴です。一方で株式会社は、会社を所有しているのは株主で実際に経営は役員がしています。
会社形態によって設立にかかるコストが異なり、定款の認証が必要な株式会社は、持分会社よりも100,000円以上費用がかかってしまう場合がほとんどです。しかし、株式会社は4つの会社形態のなかでは、最も知名度が高いことから、社会的信用を得やすい傾向にあります。
法人化を検討する際は、設立費用や知名度、資金調達のしやすさなどを比較して、自分の事業や目的にあった会社形態を選びましょう。
事業の拡大を考えている個人事業主やフリーランスは、ぜひこの記事を参考に、法人化を進めてみてください。
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低予算で始めやすい事業は?
低予算でも始めやすい事業は以下のとおりです。
- ハンドメイド商品の販売
- オリジナルTシャツの販売
- デジタルコンテンツの作成
- ウェブライター
- ウェブデザイナー
低予算で始めやすい事業でも、すぐに利益につながるとは限りません。分析や改善を繰り返して事業を成長させましょう。
アントレプレナーとは?
アントレプレナーは起業家のことです。経営者と異なり、自分で新しいビジネスを開拓していく必要があります。時代の変化に伴って独創的なアイデアで新しいビジネスモデルを生み出すアントレプレナーに注目が集まっています。
一番よい会社の形態は?
基本的には株式会社か合同会社を選ぶとよいでしょう。株式会社と合同会社のどちらが良いかは将来的な事業展開や法人化の目的によっても異なります。
文:Kana Fukuzumi